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大阪地方裁判所 昭和59年(ワ)7618号 判決 1988年6月27日

原告

大塚シナコ

ほか五名

被告

山田修

ほか一名

主文

一  被告山田修は、原告大塚シナコに対し金二六七万〇七八〇円、同大塚雅教に対し金一一〇万円、同大塚武男、同大塚喜一郎、同西田悦子及び同大塚勝己に対し各金八二万円、及びこれらに対する昭和五八年一一月二日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告大東京火災海上保険株式会社は、原告大塚シナコに対し金一六五万円、同大塚雅教に対し金一一〇万円、同大塚武男、同大塚喜一郎、同西田悦子及び同大塚勝己に対し各金八二万円、及びこれらに対する昭和五八年一一月二日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

五  この判決は原告ら勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自、原告大塚シナコに対し金四一二万六八八〇円、同大塚雅教に対し金二五三万円、同大塚武男、同大塚喜一郎、同西田悦子及び同大塚勝己に対し各金一六五万円、及びこれらに対する昭和五八年一一月二日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生

次のとおりの交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(一) 日時 昭和五八年三月一日午前五時一五分頃

(二) 場所 大阪府四条畷市楠公一丁目一番二〇号先大東四条畷線上

(三) 加害車 訴外寺坂靖運転の原動機付自転車(車両番号大東市う五二〇三号)

(四) 被害車 亡大塚千代吉(明治三四年七月一八日生、以下「亡千代吉」という。)運転の足踏み式二輪自転車

(五) 態様 加害車が時速約四〇キロメートルで南進中、先行する被害車に追突し、亡千代吉を路上に転倒させた。

2  責任原因

被告らは、次のとおりの理由により、本件事故による亡千代吉及び原告らの損害を賠償すべき義務を負う。

(一) 運行供用者責任(自賠法三条)

被告山田修(以下「被告山田」という。)は、加害車を自己のために運行の用に供していた。

(二) 自賠責保険契約による責任(自賠法一六条一項)

被告大東京火災海上保険株式会社(以下「被告会社」という。)は、本件事故に先立つて、被告山田との間で、加害車を被保険自動車とする自賠責保険契約を締結し、その保険期間内に本件事故が発生した。

3  損害

亡千代吉は、本件事故により、次のとおり受傷した結果死亡(仮に、本件事故と亡千代吉の死亡との間に寄与度という考え方を容れる余地があるとしても、本件事故の寄与度は七割以上である。)し、同人及び原告らは、それ以下に述べるとおりの損害を被つた。

(一) 亡千代吉の受傷等

(1) 受傷

頭部打撲挫傷、全身打撲及びこれによる慢性硬膜下水腫、慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症

(2) 治療経過

<1> 昭和五八年三月一日から同年四月八日まで徳洲会野崎病院(以下「野崎病院」という。)に入院(三九日間)

<2> 昭和五八年四月九日から同年五月二四日まで右病院に通院

<3> 昭和五八年五月二五日から同年六月一五日まで右病院に入院(二二日間)し、同年五月二八日には血腫除去術を受ける。

<4> 昭和五八年六月一六日から同年一一月二日まで右病院に通院

(3) 死亡

右水腫・血腫または正常圧水頭症のため食欲不振、頭痛、全身倦怠感、歩行障害、尿失禁等の全身衰弱症状を来し、昭和五八年一一月二日午前二時頃自宅において死亡

(二) 亡千代吉の損害

(1) 入院雑費 六万七一〇〇円

入院中一日一一〇〇円の割合による六一日分

(2) 休業損害 五二万円

亡千代吉は、本件事故当時熊野大神宮に雑役夫として勤め、月平均六万五〇〇〇円以上の収入を得ていたものであるところ、本件事故により昭和五八年三月一日から同年一一月二日までの約八か月間休業を余儀なくされ、その間五二万円の収入を失つた。

(3) 慰藉料(入通院分) 一〇三万五〇〇〇円

(4) 損害額合計 一六二万二一〇〇円

(三) 原告らの損害

(1) 葬儀代 八〇万円

亡千代吉の葬儀代については、同居していた三男の原告大塚雅教(以下「原告雅教」という。)が右金員を負担した。

(2) 慰藉料(死亡分)

<1> 原告大塚シナコ(以下「原告シナコ」という。) 三〇〇万円

右原告は亡千代吉の妻であり、同人の死亡に対する慰藉料としては、右金員が相当である。

<2> 原告雅教 一五〇万円

<3> 原告大塚武男、同大塚喜一郎、同西田悦子及び同大塚勝己(以下「原告武男ら四名」という。) 各一五〇万円

原告雅教及び原告武男ら四名は、いずれも亡千代吉の子であり、同人の死亡に対する慰藉料としては、右各金員が相当である。

(3) 弁護士費用

<1> 原告シナコ 三七万五〇〇〇円

<2> 原告雅教 二三万円

<3> 原告武男ら四名 各一五万円

(4) 損害額合計

<1> 原告シナコ 三三七万五〇〇〇円

<2> 原告雅教 二五三万円

<3> 原告武男ら四名 各一六五万円

4  損害の填補

原告らは、本件事故による損害につき、被告会社から自賠責保険金として次のとおり支払を受けた。

(一) 亡千代吉の慰藉料(入通院分)として三一万三六二〇円

(二) 入院雑費として三万六六〇〇円

5  権利の承継

原告シナコは、亡千代吉の相続人である原告らの間での遺産分割協議により、亡千代吉の被告らに対する損害賠償請求権(残額一二七万一八八〇円)を承継取得した。

6  本訴請求

よって請求の趣旨記載のとおりの判決(但し、原告シナコについては、残損害額四六四万六八八〇円の内金請求。遅延損害金は、本件事故による各損害発生以後の日である昭和五八年一一月二日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による。)を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の(一)ないし(五)は認める。

2  同2の(一)及び(二)は認める。

3  同3は不知。

4  同4は認める。

5  同5の内、原告シナコが遺産分割協議により、亡千代吉の休業損害に関する損害賠償請求権を取得した事実は認めるが、その余は不知。

6  亡千代吉の死亡原因は急性虚血性心不全であり、これは同人の持つていた狭心症、心筋梗塞症等の心臓疾患に基づくものであつて、本件事故との因果関係はない。

慢性硬膜下血腫については、血腫除去手術が成功し、亡千代吉は、新たな血腫の発生もない状態で日常生活を送り、経過観察を受けていたものであつて、その死亡の一週間前の昭和五八年一〇月二五日のCT検査において従前と変わらず著変なしとされ、医師もその治療の必要性を認めない状態にあつた以上、同人の死亡は、死亡以前に高度の意識障害を起こすとされる慢性硬膜下血腫による死亡とは到底考えられない。

三  抗弁(損害の填補)

本件事故による損害については、原告らが自認している分以外に、被告会社から自賠責保険金として次のとおりの支払がなされている。

(一)  治療費として八一万九〇八〇円

(二)  付添看護費として三万円

(三)  その他の費用として七〇〇円

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は認めるが、同(三)の費用は文書料であり、同(一)ないし(三)はいずれも本訴で請求している損害以外の損害に対する支払であるから、本訴請求に対する損害の填補にはならない。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  交通事故の発生

請求原因1の(一)ないし(五)の事実は、当事者間に争いがない。

二  責任原因

1  運行供用者責任

請求原因2の(一)の事実は、当事者間に争いがない。

従つて、被告山田は自賠法三条により、本件事故による亡千代吉の生命又は身体への侵害によつて生じた損害を賠償する責任を負う。

2  自賠責保険契約に基づく責任

請求原因2の(二)の事実は、当事者間に争いがない。

従つて、被告会社は自賠法一六条一項により、政令の定める保険金額の限度(本件事故当時は、死亡による損害につき二〇〇〇万円、死亡に至るまでの傷害による損害につき一二〇万円)において、加害車の運行供用者である被告山田が負担する損害賠償額を支払う責任を負う。

三  本件事故と亡千代吉の死亡との因果関係

原告らは、亡千代吉の死亡は本件事故によるものであると主張し、被告らはこれを争うので、以下この点について検討する。

1  亡千代吉の本件事故による受傷及び死亡に至るまでの経緯

成立に争いのない甲第一号証、原本の存在及び成立並びに写の成立につき争いのない乙第三ないし第一一号証、原告雅教及び同シナコの各本人尋問の結果によれば、次のとおりの事実が認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(一)  亡千代吉には、妻の原告シナコとの間に、原告雅教及び原告武男ら四名の計五人の子供がいたが、亡千代吉は、本件事故当時原告シナコとともに三男である原告雅教の家族と同居し、約一〇年前から当時の国鉄片町線鴫野駅近くの熊野大神宮で、掃除や氏子からの集金などをする雑役夫として働いており、休日以外は毎朝午前五時頃家を出て、自宅から自転車、国鉄及びバスを乗り継いで通勤し、夕方の四時から六時頃に帰るという生活を送つていたところ、本件事故当日も八一歳という高齢ながら、通勤のため午前五時頃家を出て、自転車で国鉄片町線四条畷駅へ向かう途中で本件事故に遭つたものであること

(二)  亡千代吉は、本件事故直後救急車で野崎病院に搬入され、頭頂部の切創が大きく、頭部打撲挫傷、全身打撲との診断を受けて入院し、当初は意識が不明瞭であつたものの、その後脳圧降下剤等の使用により、徐々に一般状態が改善し、昭和五八年四月八日に退院したが、入院中の頭部CTスキヤン(以下「CT」という。)で慢性硬膜下水腫が認められたため、その後の血腫の出現を早期に知る目的で退院後も引き続き定期的にCTによる検査が必要とされ、同月九日から通院していたところ、同年五月二〇日のCTで慢性硬膜下血腫が認められ、左片麻痺も出現したことから、同月二五日に再入院し、同月二八日血腫除去術等が施行され、その後症状が軽快して同年六月一五日退院したが、血腫が再発しないか経過観察が必要であるため、同月一六日から再び通院して定期的に検査を受けていたものであり、同年一〇月一八日頃からは頭痛、食欲不振、倦怠感を訴えていたものの、同月二五日のCTでは著変が認められず、入院を指示されるまでには至つていなかつたこと

(三)  亡千代吉は、昭和五八年一一月二日午前二時頃自宅の寝床の中で死亡しているのを原告シナコによつて発見され、近医の河野医院の河野泰通医師の死体検案により、急性虚血性心不全で数分間の内に死亡したものであると診断されたため、原告らからの亡千代吉の死亡による損害に関する自賠責保険金の請求に対し、被告会社は昭和五九年二月二二日、「死亡につきましては、死因が急性虚血性心不全で病死となつており、外傷に対する治療経過から事故と死亡との間に相当因果関係はないものと判断いたします。」との内容の支払不能の通知を行つたこと

2  急性虚血性心不全について

被告らは、亡千代吉の死亡は急性虚血性心不全によるもので、これは同人の心臓疾患に基づくものである旨主張し、成立に争いのない乙第四一号証及び東京都監察医務院副院長である証人乾道夫の証言によれば、同証人は、急性虚血性心不全とは、一般的に狭心症とか心筋梗塞症とかいわれるものであり、心臓の環状動脈の硬化、狭窄によつて血液の流れが悪くなり、心臓に栄養が十分に行かなかつたときに起こる症状であって、元々その人の持つている器質的な病気が突然全面に出たものであり、本件事故とは直接関係のないものであると考えていることが認められるところ、証人河野泰通の証言によれば、同証人が亡千代吉の死体検案の結果、同人の死因を急性虚血性心不全と判断した理由は、死因を消去法で考えてみて結局何らかの理由による心停止としか考えられなかつたからであつて、特に狭心症とか心筋梗塞症とかを念頭に置いたものではないことが認められるから、被告らの右主張は、その前提において根拠を欠くことになるといわざるを得ず、これを採用し得ない。

3  慢性硬膜下水腫及び慢性硬膜下血腫について

原告らは、まず、本件事故によつて生じた慢性硬膜下水腫または慢性硬膜下血腫により、亡千代吉が衰弱して死亡した旨主張し、前掲甲第一号証によれば、亡千代吉の主治医であつた野崎病院の畠田和彦医師が、亡千代吉の昭和五八年一〇月一八日頃よりの頭痛、食欲不振、全身倦怠感などの症状は、慢性硬膜下血腫のための衰弱とも考えられ、それが同年一一月二日の心不全による死亡に影響した可能性もあると考えられていることが認められるが、成立に争いのない乙第四一号証及び前記の証人乾道夫の証言によれば、慢性硬膜下水腫は、血腫に比べて粘稠度が小さく、脳を圧迫する危険性はないこと、慢性硬膜下血腫については、亡千代吉の場合血腫除去術により症状が改善されており、仮に血腫が再貯留したとしても、その場合には高度の意識障害などを必然的に伴うものであるのに、亡千代吉の死亡の前にはこれらの症状がなかつたことが認められ、証人河野泰通及び同福間誠之も右認定に沿う証言をし、他にこれを左右するに足る証拠はないから、原告らの右主張は採用できない。

4  正常圧水頭症について

原告らは、次に、亡千代吉において本件事故によつて生じた正常圧水頭症が進行し、全身衰弱症状を来して死亡したと主張するところ、亡千代吉の死亡前の症状につき、各本人尋問において、原告雅教は、「六月一五日に退院後小康状態が続いていたが、その後徐々に除去術前の状態が出てきて、父は頭痛のため頭を縛り、歩行も出来ず、体力も弱まり、尿も垂れ流しのためおむつをしている状態で、一一月二日に死亡した。」旨、原告シナコは、「六月一五日に退院したが事故前に比べて弱つており、本人は熊野大神宮へ行きたがつて出かけたが、歩き方も頼りなく、言語障害もあり、物忘れもするので辞めさせられたようであり、頭が痛いのかはちまきをしたりしていた。夫は病院嫌いで、入院していたときも早く退院したいと言つており、退院後週一回通院していたのも私が無理に連れていつていたのだが、一〇月二五日の病院からの帰りに症状が悪くなり、歩くのが困難となり、大便を失禁し、亡くなるまで意識ははつきりせずぼけたような状態で、食欲も次第になくなつてきた。病院は本人が嫌いだつたし、私が連れていくのもしんどく、家で死んでもよいと思つて連れていかなかつた。」とそれぞれ供述し、成立に争いのない甲第二号証、第三号証、第九、第一〇号証の各一ないし三、及び京都府立医科大学講師で京都第一赤十字病院脳神経外科部長である証人福間誠之の証言によれば、亡千代吉の受傷直後の昭和五八年三月二日と死亡した日の八日前の同年一〇月二五日のCTを比較してみると、明らかに両側脳室、第Ⅲ脳室が拡大し、脳室周囲低吸収域を認め、正常圧水頭症の存在を示唆する所見が認められるが、これは、くも膜下出血、外傷などの後くも膜の癒着のために脳脊髄液の吸収が障害されて発生すると考えられていて、臨床的には痴呆、歩行障害、尿失禁を認める症候群であり、亡千代吉の家族の話から推定すると、これらの症状があつたようで、亡千代吉は外傷に起因すると考えられる正常圧水頭症により、高齢であつた同人が急速に衰弱して死亡したものと推定されると判断していることが認められる。

5  考察

以上の事実に基づいて、本件事故と亡千代吉の死亡との因果関係の有無を判断するに、亡千代吉の死亡前の症状に関する原告雅教及び原告シナコの前記各供述については、野崎病院での最後の受診日である昭和五八年一〇月二五日から急激に症状が悪化したにもかかわらず、亡千代吉をどこの病院にも連れていつていない点など、疑問の余地もないではないが、右各供述を覆すに足る証拠はなく、右症状に亡千代吉のCTの所見、事故前の亡千代吉の稼働状況、健康状態等を考え合わせれば、亡千代吉は、本件事故によつて生じた正常圧水頭症の進行などによる衰弱が一因となつて心不全により死亡したとみるのが相当であり、本件事故と亡千代吉の死亡との間には因果関係があると考えられるところ、他方において、亡千代吉は本件事故時で八一歳、死亡時には八二歳という高齢であること、成立に争いのない甲第四ないし第八号証の正常圧水頭症に関する文献によれば、正常圧水頭症は直接生命に影響を及ぼすような病気ではないことが認められること等の事情を考慮すれば、本件事故が亡千代吉の死亡に寄与した割合は五割とみるのが相当である。

四  損害

1  亡千代吉の損害

(一)  入院雑費 六万一〇〇〇円

亡千代吉が六一日間入院したことは、前記認定のとおりであり、右入院期間中一日一〇〇〇円の割合による合計六万一〇〇〇円の入院雑費を要したことは、経験則上これを認めることができるが、右認定を超える分については、本件事故と相当因果関係がない。

(二)  休業損害 四〇万円

原告雅教及び同シナコの各本人尋問の結果によれば、亡千代吉は本件事故当時熊野大神宮に雑役夫として勤務し、一か月に少なくとも五万円の収入を得ていたが、本件事故により、昭和五八年三月一日から同年一一月二日までの約八か月間休業を余儀なくされ、その間四〇万円の収入を失つたことが認められる。

(三)  慰藉料(入通院分) 一〇〇万円

本件事故の態様、亡千代吉の傷害の部位、程度、治療経過、その他諸般の事情を考えあわせると、同人の入通院に関する慰藉料額は一〇〇万円とするのが相当である。

(四)  損害額合計 一四六万一〇〇〇円

2  原告らの損害

(一)  葬儀代 五〇万円

原告雅教の本人尋問の結果によれば、本件事故当時三男の同原告が亡千代吉と同居していたため、同人の葬儀代として約一五〇万円を支出したことが認められるところ、本件事故による損害として通常被告らに負担させるのが相当な葬儀代は、この内五〇万円と認められる。

(二)  慰藉料(死亡分)

本件事故の態様、原告らと亡千代吉との身分関係、同人の死亡時の年齢、その他諸般の事情を考えあわせると、同人の死亡に対する慰藉料額は、その妻である原告シナコにつき三〇〇万円、その子らである原告雅教及び原告武男ら四名につき各一五〇万円とみるのが相当である。

(三)  本件事故との因果関係

右(一)及び(二)によれば、亡千代吉の死亡による原告らの損害額は、原告シナコにつき三〇〇万円、原告雅教につき二〇〇万円及び原告武男ら四名につき各一五〇万円となるところ、前記認定のとおり、本件事故と亡千代吉の死亡との因果関係は五割と考えられるから、原告らが被告らに対し請求し得る右損害額は、原告シナコにつき一五〇万円、原告雅教につき一〇〇万円及び原告武男ら四名につき各七五万円となる。

五  権利の承継

請求原因5の内、原告シナコが遺産分割協議により、亡千代吉の休業損害に関する損害賠償請求権を取得した事実は、当事者間に争いがなく、その余の事実についても、原告雅教の本人尋問の結果により、これを認めることができる。

従つて、原告シナコは、前記認定の亡千代吉の被告らに対する損害賠償請求権(一四六万一〇〇〇円)を、相続により承継取得したものと認められる。

六  損害の填補

請求原因4の事実は、当事者間に争いがないところ、前記四で認定した事実によれば、右填補額三五万〇二二〇円は原告シナコにおいて取得し、これを前記認定の亡千代吉の損害分に充当したとみるのが相当であるから、同原告が請求し得る損害額は、右損害分につき一一一万〇七八〇円、同原告固有の損害分につき一五〇万円となり、合計二六一万〇七八〇円となる。

次に、抗弁事実についても、当事者間に争いがないところ、原本の存在及び成立並びに写の成立につき争いのない乙第一三号証によれば、同(三)のその他の費用は文書料であり、同(一)ないし(三)の各支払はいずれも原告らの本訴請求外の損害に関するものであることが認められるから、被告ら主張の抗弁事実は本訴請求に対する損害の填補にはならない。

ところで、右各事実によれば、被告会社は、本件事故による亡千代吉の死亡に至るまでの傷害による損害につき、自賠責保険金として合計一二〇万円の限度額まで支払つていることが認められるから、原告シナコの被告会社に対する請求の内、前記の亡千代吉の損害に関する部分については理由がないというべきである。

七  弁護士費用

本件事故の内容、審理経過、認容額等に照らすと、原告らが被告らに対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は、原告シナコにつき二六万円(内死亡による損害に関する分一五万円、傷害による損害に関する分一一万円)、原告雅教につき一〇万円、原告武男ら四名につき各七万円とするのが相当であると認められる。

八  結論

よつて、被告山田は、原告シナコに対し二六七万〇七八〇円、原告雅教に対し一一〇万円、原告武男ら四名に対し各八二万円、及びこれらに対する本件事故発生日以後で亡千代吉が死亡した日である昭和五八年一一月二日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を、被告会社は、原告シナコに対し一六五万円(亡千代吉の死亡による損害分及びこれに関する弁護士費用の合計額)、原告雅教に対し一一〇万円、原告武男ら四名に対し各八二万円、及びこれらに対する前同日から支払ずみまで前同様の遅延損害金をそれぞれ支払う義務があり、原告らの本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 細井正弘)

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